週末のオススメ酒(毎週更新)

【毎週更新】今週の入荷情報&おすすめ酒~2026年8月第四週~

こんにちは。
四代目、土井優慶です。

※札幌でのペアリングイベントのため、更新時間が遅くなりましたこと、ご容赦ください

お盆が明けてすぐ、5日間ほど新潟へ行ってきました。

今回の目的の一つが酒蔵巡り。

「八海山」を醸す八海醸造。

「荷札酒」を醸す加茂錦酒造。

そしてもう一軒、まだ詳しくは書けないのですが、これから皆さんにもご紹介できる日が来るであろう、小さな酒蔵にもお邪魔してきました。

この三蔵、全然違うんですよ。

規模も違う。

歴史も違う。

置かれている環境も違うし、目指しているものも違う。

でも5日間を終えて北海道に戻ってきてから、

「なんか一個だけ、三蔵とも同じものがあったなぁ」

と思っています。

今日はそんな話を少し。

八海山って、こんな会社だったんだ

最初に訪れたのは、南魚沼にある八海醸造。

日本酒「八海山」といえば、酒屋じゃなくても知っている人は多いでしょう。

1922年創業なので、100年を超える歴史を持つ酒蔵です。

もちろん十分に老舗なのですが…何百年という歴史を持つ酒蔵も珍しくない日本酒業界の中では、実はものすごく古い蔵というわけではありません。

しかも、もともとは小さな酒蔵だった。

それが今では、新潟を代表する酒蔵の一つになっています。

今回初めて訪問してみて、まず驚いたのがそのスケールでした。

八海醸造がつくっているのは、日本酒だけではありません。

ビール、焼酎、あまさけ、ウイスキー。

「米・麹・発酵」というものを広く捉えて、いろいろなものづくりをしています。

そして南魚沼には「魚沼の里」という様々な施設が集まった公園?広場?的な場所があります。

酒蔵があり、ビールの醸造所があり、レストランがあり、蕎麦屋があり、お菓子屋がある。

南魚沼はとにかく雪が多い土地ですから、その雪を利用してお酒などを貯蔵する「雪室」もあります。

平日にもかかわらず、かなりの人。

皆さんレストランで食事をしたり、買い物をしたり、景色を眺めたり、思い思いにその場所を楽しんでいました。

これ、自分たちの日本酒を売ることだけ考えたら、たぶん必要ないんですよね。

当然、とんでもない投資も必要です。

それでも八海醸造がやろうとしている。なぜなんだろう。

実際に現地を歩きながら感じたのは、彼らが残そうとしているのは「八海山」という日本酒だけじゃないんだろうな、ということでした。

南魚沼の風土。

雪国の暮らし。

そこで育まれてきた食文化。

自分たちを育ててくれた土地そのものや文化風習を、次の世代へ残していこうとしている。

いやぁ、これはすごいなと、素直にそう思いました。

しかも一方では、ロサンゼルス・ドジャースとパートナーシップを結び、世界へ日本酒を発信している。

南魚沼の原風景を守ろうとしながら、片方ではもっと多くの人、しかも日本だけではなく世界の人たちに日本酒を広げたいと考えてもいる。

南魚沼と、ドジャース、この振り幅(笑)

地方の酒蔵がここまで大きな絵を描いて、一歩ずつ着実に思い描く世界を実現していく。

まず、ここに圧倒されました。

でも、一番驚いたのは「人」だった

そして今回、八海醸造でもう一つ強烈に印象に残ったことがあります。

スタッフの皆さんです。

今回の新潟滞在中、担当の営業さんにはかなりの時間を割いてアテンドしていただきました。

さらにその上司の方まで、僕たちを迎えるために東京からわざわざ新潟へ(これは社内ではごく一般的なことらしい…すごい)

仕込水の水源にも連れて行っていただきましたし、各施設ではそれぞれの責任者の方が時間を取って、設備や酒造りについて説明してくださいました。

スケジュールもかなり細かく組まれていて「この時間に、この施設で、この方が、何分くらいで説明する」というところまで社内で共有されている。

まず、このホスピタリティに驚きました。

でも僕がもっと驚いたのは、皆さんが自分の会社のことをものすごくよく理解していることでした。

自分の担当している仕事を説明できる、という話じゃないんです。

「なぜ八海醸造がこれをやっているのか」
「会社として何を目指しているのか」
「だから、この設備が必要なんです」

というところまで、ちゃんと自分の言葉で話せる。

これって、簡単じゃないどころか、むしろかなり難易度が高いことだと思っています。

自分の仕事を説明することはできても、その仕事と会社の目指しているものをつなげて話すには、自分の会社そのものを相当深く理解していなければならない。

何人もの方と話しましたが、誰と話してもそれができる。

まるで一人ひとりが「代表」みたいなんですよね。

そこで、ふと考えました。

うちのスタッフたちは、自分たちの会社のことをここまで話せるだろうか。

……いや。

これはどちらかというと、スタッフの問題じゃないなと。

土井商店が何を目指しているのか。
なぜ僕らはこういう商品を扱っているのか。

なぜ、こんな面倒くさいくらい一生懸命説明して売っているのか(笑)

そういう景色を、僕自身がスタッフにどこまで見せられているだろう。

今回感じた八海醸造のホスピタリティの正体も、ひょっとするとここなのかもしれません。

自分の会社を深く理解している。

自分たちの仕事に意味を感じている。

だから、訪れた人にも「ちゃんと伝えたい」と思う。

その結果が、受け手にとっては感動になる。

八海醸造の皆さんを見ながら、経営者として随分と考えさせられました。

「荷札酒」のシンデレラストーリー

次に訪れたのが、「荷札酒」を醸す加茂錦酒造。

「会いたいけど、たぶんそのうち会えるか、と思って数年経ってしまった」という、社長の田中悠一さん(以降は田中くん)の直電&衝撃の告白から、数か月後の2026年1月から取り扱いを開始した日本酒『荷札酒』

他の蔵元からも「土井さんとはたぶん相性がよさそうな気がする」という見立て通り、お互い意気投合するのも早く、今回蔵にも訪問してきました

田中くんには、ちょっと”出来すぎ”なくらいのシンデレラストーリーがあります。

デビュー当時からメディアで騒がれていたので、記憶にある方も多いことでしょう

大学生だった田中さんが酒造りの世界へ入り、まだ20代前半で自分の造った酒を東京へ持ち込む。

そこで酒を評価され、その後「荷札酒」は一気に全国へ。

若い天才が突然現れて、あっという間に人気酒を生み出した。

外から見れば、そんな物語に見えます。メディアも押しなべてそんな口調です。

僕自身も、どこか「そうなんだな」と思っていました。

でも本人と話してみると、当然そんな単純な話ではありません。

華々しく注目された裏側には、葛藤もあった。軋轢もあった。

若くして成功したからこその妬みや嫉妬もあった。

そして、世間から見える「シンデレラボーイ」と、彼自身が実際に積み重ねてきたものとのギャップにも、ずいぶん苦しんだそうです。

いろんな苦しみがあった。

もちろん、それを全部ここで書くことはしませんが。

でも実際に蔵へ行くと、

「全然、ポッと出のシンデレラボーイじゃないぞ。めちゃ苦労してるじゃん」

ということは、本当に、すごく、すごーく、理解できました。

まず驚くのが、酒を造っている環境です。

現在酒造りをしている建物は、もともと酒蔵として建てられたものではありません。

もともとは縫製工場だった建物です。

当然、酒造りのために設計された建物ではありませんから、動線が違う。

天井の高さも違う。構造も違う。

設備面でもいろいろな制約がある…いや制約どころかデメリットばかり。

正直、

「え、ここであの荷札酒、造ってんの?」って絶句する瞬間が多かったです。本当に。

それくらい大変な環境です。

あの「荷札」、まさかの手作業でした

そして今回、個人的にかなり面白かったのが、荷札酒のラベル。

飲んだことがある方ならわかると思いますが、名前の通り、本当に荷物につける「荷札」のようなデザインになっています。

そこには使用米や精米歩合など、そのお酒についての細かな情報が書かれています。

これ、かつて読んだ記事では「スタッフがスタンプで手押ししている」と読んだことがあり、さすがにかなりの製造量になってきているので印刷化したんだろうな、と思ってました。

違いました。

スタッフの皆さんが、いまでも一枚一枚ハンコを押している。

いくつものハンコを使って、そのお酒の情報を一枚一枚入れていく。

さらに形が特殊なので、機械でペタペタ貼ることもできない。

最後は人の手で一本一本貼っていくそうです。

今や全国で知られる人気銘柄ですよ。

その荷札酒が、こんなにも人の手でつくられている。

さすがに、驚きました。

でも考えてみると…

このラベルの話って、なんだか田中さんそのものを表しているような気もするんですよね。

外から見れば、とても洗練されたブランド。

華々しく成功した若い蔵元。

でも、その裏側ではものすごく地道な仕事を積み重ねている。

たぶん酒造り自体も同じなんだと思います。

メディアを通して見ていた「シンデレラボーイ」と、実際に出会った田中さん。

僕には後者の方が、ずっと人間臭くて面白く見えました。

「早くスタッフに報いたい」

そして、そんな田中さんが今考えていることも印象的でした。

「スタッフが本当によくやってくれている」

という話を何度もしていました。

決して酒造りに恵まれた環境ではない中で、一緒になって酒を造ってくれている。

ラベルだって一枚一枚つくっている。

だから早く彼らに報いたい。

もっと働きやすい環境をつくりたい。

いつか、ちゃんとした蔵をつくってあげたい。

そんな話をしてくれました。

実際、事務所ではスタッフが少しでも快適に過ごせるよう、新しい休憩スペースをつくるための改修が進んでいました。

どうしたらスタッフが過ごしやすくなるのか、自分で設計屋さんと相談しながら考えているそうです。

自分自身が苦労してきたからこそ、次は一緒に働いている人たちをそこから解放してあげたい。

僕にはそんなふうに聞こえました。

荷札の一枚一枚まで、人の手でつくっているスタッフたち。

決して恵まれているとは言えない環境で、一緒に酒を造り続けてきた仲間たち。

だからこそ、

「早く彼らに報いたい」

という言葉に重みがある。

いい酒を造ることだけが、いい酒蔵をつくることではない。

これもまた、経営者として考えさせられました。

そして、もう一つの酒蔵へ

今回、もう一軒、新潟の小さな酒蔵を訪ねています。

こちらについて詳しく書くのは、もう少し先のお楽しみということで。

実は僕自身、今後がかなり楽しみな蔵です。

ここもまた、前の二蔵とは全然違いました。

古い蔵なので、設備も決して恵まれているわけではありません。

僕ら酒屋が蔵の中へ入れば、

「うわぁ、これは大変だな……」

と、すぐにわかるくらい。

古い設備もたくさん残っています。

でも、そこで話をしてくれた方は、そんなことを全然悲観していないんです。

「これ捨てるだけでもお金かかるんですよー」

なんて笑いながら話す。

本当に屈託なく(笑)

そして話の中で何度も出てきたのが、

「チーム」

という言葉でした。

一人の天才が酒を造るのではなく、それぞれ違う経験や能力を持った人たちが集まって、みんなで一つのブランドをつくっていく。

そして、このチームで無理なく続けられる規模で、日本酒の世界に関わっていきたい。

そんな未来を、本当に楽しそうに話すんです。

まだ始まったばかり。

設備も十分じゃない。

お金だって潤沢にあるわけじゃない。

それでも、

「あれをやりたい」
「これもやってみたい」

と、未来の話が次々出てくる。

それを聞いていると、こちらまで楽しくなってきます。

何百年という歴史がなければ、酒蔵をやれないわけじゃない。

まったく違う世界で仕事をしてきた人たちが、日本酒という業界に面白さを感じて、新しく飛び込んできてくれる。

それ自体が、僕にはすごく嬉しいことに思えました。

この蔵については、またいつかちゃんとご紹介できればと思っています。

三つとも、全然違う。

100年を超える歴史を持ち、南魚沼という地域を背負いながら世界へ向かおうとしている八海醸造。

20代前半で注目を浴び、その裏側でいろんな苦労を重ねながら、今度は一緒に働く仲間の未来を考えている加茂錦酒造。

そして、まったく違う世界から日本酒に魅力を感じて飛び込み、チームで新しい酒蔵の形をつくろうとしている人たち。

三蔵とも、全然違う。

規模も違う。

歴史も違う。

持っている設備も、人の数も違う。

目指しているものだって同じではありません。

でも三蔵を巡っていて、一つだけ共通しているものがあるなぁと思いました。

誰も、日本酒の未来を悲観していない。

もちろん、日本酒が飲まれる量は減っています。

飲む人の数も減っている。

造り手であれば、その現実は僕ら酒屋以上によくわかっているはずです。

彼らが話していたのは「これからどうするか」。

もっと世界に届けたい。

自分たちを育ててくれた地域を残したい。

一緒に働く人たちを幸せにしたい。

まだ日本酒を知らない人に届けたい。

チームで新しい酒蔵の形をつくりたい。

目指している場所も、そこへ行く方法も違う。

海から行く人もいる。

陸から行く人もいる。

なんなら空から行こうとしている人もいる(笑)

でも皆さん、自分たちなりの方法でちゃんと前へ進もうとしていました。

さて、酒屋である僕らはどうするか。

造り手たちは、これだけ高い解像度で自分たちの会社や日本酒の未来について考えている。

では、お客様と一番近いところで日本酒を売っている僕らはどうなんだろう。

僕自身はどうなのか。

土井商店はどうなのか。

そしてスタッフたちに、その景色をちゃんと見せられているだろうか。

今回、八海醸造のスタッフの皆さんを見て、特にそれを考えました。

自分の会社が何を目指しているのか。

なぜ自分はこの仕事をしているのか。

自分たちの仕事が、この業界の中でどんな役割を持っているのか。

そこまで一人ひとりが自分の言葉で話せる。

そんな人たちが、この日本酒業界にはまだまだたくさんいるんです。

僕自身、今回それを目の当たりにしました。

そして、そういう景色があることを土井商店のスタッフたちにも、もっと見せていかなきゃいけない。

今のスタッフが悪いという話ではなくて、そこまで高い解像度でこの業界を見るための材料を、僕がちゃんと渡せているだろうか。

これは僕自身の課題です。

造り手から受け取ったものを、ただ商品として棚に並べるだけでは足りない。

彼らが何を考えているのか。

何を目指しているのか。

なぜ、この一本を造っているのか。

そこまで受け取って、自分たちの言葉にして、お客様へ手渡していく。

たぶん、それが僕ら酒屋の仕事なんだと思います。

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